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アークアンドトークアソシエイツ 今岡一哉 一級建築士事務所 東京都武蔵野市
ホームシアターのつくりかた (2)
2007年12月25日
大音量での迫力を楽しむには?
ホームシアターといえば“大音量”。
“大音量”で5.1chの映画を楽しむ時、気になるのはご近所とのトラブルです。
遮音された部屋の代表格といえば録音スタジオですが、そんな部屋を普通の住宅につくることはできるのでしょうか?。
マンションでの遮音の検討
録音スタジオはプラン・構造・設備のすべてがきわめて特殊で、建物の基本設計段階から専門家によって検討がおこなわれます。新築の場合をのぞいて、普通の住宅としてつくられた建物の1室を(録音スタジオなみでなくとも)遮音するのは、実はとても難しいことです。
例えばマンションの1室を遮音する場合、はじめに次のような検討をします。
1.プランニング
まず上下をふくむ隣戸や隣室の用途から、どれくらいの遮音性能が必要かを決定します。寝室など静けさを要求される部屋が隣にあれば、より高い遮音性能が必要になってコストにはねかえってくることになります。
おおざっぱな遮音の仕様をきめたら、次にそれを図面上にレイアウトしてみます。遮音の壁の厚さは場合によっては合計30cmにもなります。床・天井も同様で、おまけに換気ダクトのために大きな天井ふところも必要です。音の響きのためには部屋の容積が大きいほうが好ましいので、理想のホームシアターとして十分な部屋の広さと高さを確保できることを確かめます。
2.構造
音には重い壁ほど透過しにくいという性質(質量則 ※1)があり、遮音性のよい材料=重い材料です。
けれどただ重くすればよいというわけではなく、録音スタジオのようにあるレベル以上の遮音性能がもとめられる場合には、その重い部屋全体を防振ゴムで支えて(“浮かす”といいます)、とても長い固有周期をもたせることにより建物へ振動が伝わりにくくします。
本来ならば、この重さを固定荷重として建物の構造計算時にみこんでおくのが理想ですが、改修工事ではやむをえず積載荷重として検討します。建築の専門のかたならおわかりでしょうが、ここが大きなネックになります。
3.設備
水、お湯、排水、ガス、ダクトなどの“管”はすべて遮音の敵です。
ですので水道・ガス・レンジフードが集まるキッチンをホームシアターの一部にとりこむことは(予算に糸目をつけないかたでないと)お薦めしません。(そもそも気密性の高い部屋にはガスなどの燃焼系器具の設置は禁止です。どうしてもというかたはIHを検討してください。)
またホームシアターと関係のない配管はできるだけ天井裏や床下を通らないように気をつけます。うっかりすると遮音床・天井に点検口が必要になり、思わぬ手間がかかります。
(※ 空調・換気計画はとても難しいのでここでは割愛します。)
おおざっぱですが、住宅を遮音する難しさを感じていただけたでしょうか。
ただ住宅の一室を録音スタジオなみに遮音することが難しいからといって、ホームシアターがつくれないわけではありません。それにもし録音スタジオなみに遮音できたとしても、それでまったく問題がないわけでもないのです。
(続く)
バックナンバー
ホームシアターのつくりかた (1)
ホームシアターのつくりかた (3)
ホームシアターのつくりかた (4)
ホームシアターのつくりかた (5)
ホームシアターのつくりかた (6)
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※この文章は友伸建設株式会社ホームページ“echou-house”用に書き下ろしたものを加筆して転載したものです。
筆者は音響の専門家ではありませんが、建築士としての知識と録音スタジオのデザイナーとしての経験から、できるだけわかりやすくホームシアターを解説したいと思っています。(今岡一哉)
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